取材・文=林 和弘(『CONTINUE』編集長)
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「宇木敦哉監督を北海道でインタビューしませんか?」――そんなお声がけをいただいたのが2019年4月下旬。
GW進行ド真ん中だった僕は「あーそれは面白そうですねー」という生返事をしたのだが、その後、冷静になって頭を抱えることになった。
宇木監督は過去、いわゆる「決定版となるロングインタビュー」を受けていないのだ。
手元にあるのは弊誌『CONTINUE』Vol.47で実現したryo(supercell)との対談(3ページ)、『センコロール【完全生産限定版】』の特典映像(6分弱)、ライナーノーツに掲載されたインタビュー(4ページ)のみ。
しかもライナーノーツは特典映像とソースが同じ……。
僕の知る限り、天才的な才能を持つクリエイターが「取材」という場において雄弁だったことは極めて少ない。
彼らは、自らの天才性を「コトバ」という形でアウトプットすることに慣れていない……というか、そもそも言語化する必要がないのだ(だからこそ、彼らは天才足り得ている)。
そして、2009年にたったひとりで『センコロール』を世に送り出した宇木敦哉は、宮崎駿、安彦良和、庵野秀明、細田守、新海誠へと続く系譜の先に立つ、正真正銘の天才クリエイターなのだ。
2019年6月5日。徒手空拳でやって来た北海道札幌。前作から10年という歳月をかけて新作『センコロール コネクト』を完成させた直後の宇木監督が、僕の前に現れた――。
幻のパイロット版、そして『センコロール』
――10年ぶりの新作『センコロール コネクト(以下、コネクト)』が完成しましたけど、いまの率直な心境はいかがですか?
宇木 そうですね……本当に今日(取材は2019年6月5日)終わったんですよ。 ちょっと前に見て直したかった4カットが今日終わった感じなんですけど、ホッとしたというのが一番ですかね。
――まさに、いま終わった感じなんですね。
宇木 ただ、いろいろ公開に向けた締め切りもあるので、まだ継続してますね。ホッとしたとは言いつつも
――何はともあれ、お疲れ様でした。
前作の『センコロール』が劇場公開されたのが2009年8月、その前、2007年に「動画革命東京」のYoutubeチャンネルでパイロット版が公開されてますよね。
そもそも宇木さんが個人でアニメを作ることになったきっかけは何だったんですか?
宇木 最初、僕が大学の卒業制作で作った2~分のムービーがあったんですけど、それを動画革命東京の人に見てもらったんですね。
――『センコロール』の完全生産限定盤に収録されている特典動画では、ICC(インタークロス・クリエイティブ・センター)の久保(俊哉)さんが動画革命東京を運営するシンクの竹内(宏彰)プロデューサーに「面白い子がいるから見てくれ」ということで宇木さんの卒業制作を見せた、という話がありますけど。
ICCというのは、北海道発のクリエイティブ、地元のクリエイターを支援しよう、という施設ですよね。
宇木 そうですね。部屋を安く借りれて、ネットも完備されてて、そこで仕事ができる、という感じの施設ですね。
僕は在籍していたわけではないんですけど、そこに先輩が入っていて、アニメとかウェブをやってた人なんですけど、在学中にアルバイトさせてもらってたんですよ。
それでICCに出入りがあったので、その流れで作品を見てもらったような気がします。
――動画革命東京で発表された段階では絵柄もだいぶ違いますし、そもそも名場面集で、特にストーリーがある感じではないですよね。
宇木 最初は「1分くらいのパイロット版を作ってくれ」みたいな話で、『センコロール』っていうタイトルも何も決まってなかったんですよ。ぼんやりと「30分くらいの長めの映像を作るんだったら、こんな感じなのかな」っていうのはあったんですけど、具体的に何かあるわけではなく、イメージで。
――そのパイロット版を見たアニプレックスさんから連絡が入って、2年後の2009年に劇場公開。当時から宇木さんの個人制作というのが話題になりましたけど、前作は完全におひとりで作られていたんですか?
宇木 いや、当時のインタビューで答えていたと思うんですけど、わりと知り合いに手伝ってもらったり、大学の後輩に来てもらって色を塗ってもらったりとか、そういう感じでしたね。
『センコロール コネクト』始動
――2009年に前作が公開されて、すごく話題にもなり、単純に「続編を見たい」っていう声もあったと思うんですけど、今回の『コネクト』の企画っていうのは、すぐに動き出したんですか?
宇木 記憶が曖昧なところもあるんですけど、前作をああいう終わり方にしたので、決まっていたか、あるいは決まってなくても何らかの形でやりたい、みたいな気持ちはあったと思います。
――それは、もしかしたらアニメ以外、マンガだったかもしれない、という可能性はありませんか?
宇木 そうですね。最悪、映像ではなくても同人誌、もしくは出版社に持ち込んでとか、そういう道もあればいいかなとは思っていましたね。
――いや、なんでお聞きしたかというと、『センコロール』が終わった後、宇木さん、結構マンガを描かれてますよね。『季刊GELATIN』で「くらげひめ」(2009年)とか「ねこまひめ」(2010年)みたいな短編を描かれたり、雑誌『アオハル』の表紙イラストを担当されたりして。
だから、もしかして宇木さん、そっちのほうに行きたいのかな、とか思ったりしたんですよね。
宇木 正直ああいう終わり方にはしたんですけど、終わった直後は、しばらくアニメは作りたくないなという気持ちはあったんですよね。
マンガもそうですけど、ちょうど『センコロール』をやっているときに『つり球』のキャラクターデザインの話が来て。アニメを休みたいなっていう頃に『つり球』が来たので、楽しくやってましたね。
続きを作りたくないっていうわけではないんですけど、少しだけ休みたい、という気持ちもあったのかもしれないです。
――とは言いながら続編の企画は動き出して、2014年に1回、「アニメジャパン」で大々的に夏公開が発表されましたよね。
結局は延期になっちゃったわけですけど、あのときっていうのは、いまだから言えるって話で、行けるっていう感じだったんですか?
宇木 「なんで行けると思っちゃったんだろうね」って話は、後々してるんですけど(苦笑)。
今回、当初からさんにお手伝いにCloverWorksさん入っていただける話はあったんですね。自分ひとりで『センコロール』のノリで作っていくと間に合わないというのはあったんですけど、CloverWorkさんも入るし、行けるんじゃないですか? みたいな。
僕のほうも皮算用的に言っちゃったところはあったかもしれないですね。
――CloverWorkさんが入るっていうのは、わりと早い段階で決まってたんですか?
宇木 『コネクト』は最初、海のシーンから始まるんですけど、そこは全部『センコロール』と同じように作ったんですよ。
それで「このペースで行くとヤバいことになるな」と思って、CloverWorkさんに入っていただくことになって。
――自分だけでアニメを作っている中で、CloverWorksさんは力のある会社であるのは大前提なんですけど、それでも外と組むっていうのは不安だったりしませんでした?
宇木 それはありましたけど、普通のアニメの作り方――原画を描いて、タイムシートを書いて――っていうことをやってみたくはあったんですよね。
それで今回ちょうどいい機会なので、いろいろ教えてもらいながらやってみようかなって。ただ、やっぱり、どういうものが上がってくるのかはわからなかったんですけど、そこは出たとこ勝負でやるしかないな、とか思いながら。
『コネクト』と、その先にあるもの
――「アニメジャパン」の段階でメインビジュアルも公開されましたけど、そこに新キャラであるカナメとゴトウダは出てますよね。その段階ではストーリーも完全にフィックスしていて、そこから変更はないんですか?
宇木 コンテができたのが2013年で、2014年にアフレコ……アフレコっていうか、最初に声を入れたんですよね。なので、話とかは完全に決まってました。
――2014年にアフレコっていうと……5年前ですね。それも、なかなか感慨深いというか(笑)。
宇木 今回は声を先に撮って、声ベースで作りたかったっていうのがあったので、先に撮らせてもらったんですよね。
その声を元に(Adobe)Premiere上で編集をしながら会話の間を詰めたり伸ばしたりとかして。
――以前のインタビューで「ユキは主役のイメージを優先したキャラクターで、元気な女の子」「自分はそういう子が好きなんじゃないか」みたいなことをおっしゃってましたけど、新キャラのカナメは、どういう女の子でしょうか? 僕、カナメがすごいカワイイなあ、と思うんですけど(笑)。
宇木 ユキは天然というか、わりと引っ掻き回すキャラにはしようという感じだったんですけど、カナメは基本マジメなんですよね。
身内がすごい人だから自分もすごい人間にならなきゃとは思いつつ、経験不足で空回ったりとか。最初に話というか「こういう展開にしたい」というのがあって、そこに自分の好きな感じでキャラクターを当てはめて、ああいう感じになりましたね。
――今回の『コネクト』ではセンコのようなドローンを管理する組織が登場したり、そこに大物がいるらしいぞ、など全体に世界観がグッと広がった印象がありますね。
宇木 そうですね、いろいろ展開できるように。いろいろ種をまきながら
――宇木さんの中では、言語化できないところも含めて世界観は明確にあるんですか?
宇木 ぼんやりと。世界観というよりは、やりたいことがあって、そこに付随するみたいなイメージなので、描き始めたら設定のほうを変えちゃおうかな、みたいな。明確な設定があってその中でやるというよりは、展開ベースで。
あとは、あんまり設定に関しては言いたくないんですよね。「これはこういう人たちです」って言ったら次に描くとき、そこが……。
――足かせになっちゃう。
宇木 そのあたりをブッチ切る人もいるんですけど、まあ、ちょっと気になっちゃうので。「あのとき、ああいうこと言ってたな」って。
――少しずつ設定が明らかになって、さらなる続編というか、いっそ「TVシリーズにしてくれ!」 みたいな声も出てくると思うんですけど、お話できる範囲でこの後の展開、「やってみたいなあ」でも構わないんですけど、そういったアイディアはありますか?
宇木 そうですね、あるんですけど……まだ書けない感じですね。
<あとがき>
ロングインタビューは1時間半にも及び、その後は、すすき野でジンギスカンを囲む――という、なかなかに楽しいものとなった。
僕は「新キャラクターのカナメがいかに魅力的か」を宇木監督に伝えることができて満足だったのだが(笑)、ネタバレにつき掲載できなかった話もたくさんあって、それについては2019年7月25日発売の『CONTINUE』Vol.60を読んでいただければ、と思う(このインタビューの約3倍の文字数があります)。
宇木監督は終始穏やかに、僕のやや突っ込んだ質問にもフラットに答えていただいた。天才クリエイター特有の「言語化できない領域」についても、可能な限り言葉を砕いてご説明いただいた宇木監督に、心から感謝を。
とはいえ『センコロール コネクト』で描かれている「天才性の発露」は、一度見ただけでは理解できないだろう。かく言う僕も、たぶん、理解できていない。
だから一度と言わず二度、三度、劇場に足を運んでいただけると嬉しい。